
創業320年、岡山に現存する蔵元では一番古い蔵といわれる花房家。赤磐地域をあずかる身分だった始祖は宇喜多家と関係が深く、城下町岡山の礎を築いた宇喜多秀家にも仕えました。江戸開幕とともに花房家は帰農、庄屋として赤磐の地を守ります。
天保年間には、財政難にあえぐ池田藩に多額の融資をしました。藩は現金ではなくお米で返済、そのお米は、もちろん酒造りに使われたようです。
酒造りを始めたのは元禄元年(1688)。文政の頃に酒屋を家業とし、明治以降、数々の銘酒を生み出します。「室町」の名称は、三越百貨店のプライベートブランドとして誕生しました。品評会で受賞を続ける花房家の評判を聞いて、日本橋の室町に本店を置く三越が、地名を銘柄にした酒を注文したのです。
雄町米は備前が誇る酒米。旨みのある芳醇な酒が造れるため多くの人々に愛されてきました。しかし、栽培も酒造りも難しいという一面があり、時代の変化とともに “幻の酒米”に。雄町米から造られた山田錦や五万石が主流になっていきました。
昭和60年頃、室町酒造は雄町米への全面切り替えにあえて挑みます。そのためには栽培農家を探し、酒造りにも手間と時間を費やさなければなりません。それでも雄町米を選んだのは、備前の酒蔵だからできる唯一無二の地酒を造りたい、という信念からでした。
醸造用水には日本の名水百選にも選ばれた地元の名水「雄町の冷泉」を使用。こうして生まれた地酒の原点ともいうべき「櫻室町」は、平成12年(2000)からベルギーのモンドセレクションで連続受賞、世界で愛されています。
こだわりのリキュールにも、地元産にこだわる精神が生きています。赤磐産青梅の「古城」で造る梅酒、赤磐産完熟清水白桃で造る清水白桃酒。どちらも1年に1度、旬の時期にしか造らない、完全手造りのリキュールです。
特に桃は最盛期の2週間が勝負。社員総出で皮をむいて種を取り除きます。最後には桃を見るのも嫌になるほどだとか。仕込みの時期には、近くの農家の人たちが「よかったら使って」と桃を持ち込んでくることもあります。地域密着の社風が生んだ交流です。
明治時代、たった二人の寺社大工が10年かけて建てたという屋敷や土蔵。建った当時は現在の数倍も大きかったといいます。この屋敷で生まれ育ち、花房家に残る逸話や家訓を継承している常務取締役の花房加代子さん。
「昔から、和を大切にする家族的な社風…と言えば聞こえはいいのですが、当家の家訓は“働かざる者食うべからず”、“立っている者は子どもでも使え”なんです(笑)」と笑顔で語ります。若い社員に教育、しつけをしている、肝っ玉母さんのような存在です。